2014年12月08日
第2回イベントのレポート
■秋晴れの遠足日和
ひめぶる宍粟の森へ出発!
11月22日(土)朝8:00 西播磨の地場工務店連合”ひめぶる”の第二回イベント
「宍粟/しそうの森 森林見学会」に向かうバスが姫路駅前を出発しました。
絶好の遠足日和。日本晴れです。
参加人員は、50名。バスは先ず、第二集合場所の宍粟市役所へ向かいます。
バスの中では、主催者 ひめぶるを代表して、大松建設の松本専務とコンフォートの黒田社長のあいさつの後、そもそも山とは何か?杉の木とはどういうものか?森林見学会の見どころは何処か?というお話を、兵庫県西播磨県民局の廣岡さんにお願いいたしました。長年、日本の林業と材木の普及に携わってこられたかたです。
車窓から宍粟の山と針葉樹林が見えます。
説明も臨場感たっぷり。みんな真剣に聴いています。いい遠足になりそうです。
郷土の歴史から、木と日本人の関係まで幅広くご説明いただきました。
■あとは野となれ、山となれ!
この言葉は日本にしか成立しない。
暖流と寒流に囲まれて、四季の変化に富む日本列島、その豊かな自然は、かけがえのない尊いものです。日本では、あとは野となれ山となれ!という言葉があります。土地を放置してそのままにしておくと、実際に、草が生え、木が生えてくる。私たちは、そのように植物が繁茂してくるのが、当たり前という感覚があります。しかし、そんな肥沃な地面が普通にあるのは日本だけ。外国では、土地は、ほっておくとどんどん砂漠化するほど、土地の養分は豊富ではないのだそうです。つまり、野にも山にもならない。
大きな地震や津波、台風や地崩れなど、日本は自然災害が多い場所ですが、その一方で、四季の変化にとんだ、他国に例を見ない豊かな恵みを自然から頂いて生活してきました。
日本列島に住む先人は、そのことをちゃんとわかっていて、自然に感謝し、自然と共存しながら生きる知恵を残してくれました。
木で家をつくり、呼吸する空間環境をつくることも、この列島で生きる先人の知恵です。
「あとは野となり、山となる」豊かな自然に
感謝して生きる。山と林業のことを勉強する前に、廣岡さんにお話しいただいた、非常に印象深いお話でした。
広葉樹と針葉樹の混合林。その植生分布も年々変化していくとのことです。
■山に到着、手入れの行き届いた美しき森。東河内杉の実力。
今なぜ、林業を応援しなければならないか?
とても分かりやすい説明を廣岡さんからお聞きしているうちに、窓の外には宍粟の里の風景が広がっています。
山を登るにつれて、美しい石積みと段々畑が多くなってきました。郷土の里山の風景です。
コンクリートやモルタルを使わず、石積みだけで成立している、素晴らしい配列の美。
バスは、どんどん山を登っていきます。
窓の外は、人里が見えなくなって、すっかり山の風景になりました。
染河内川にそって、山を登っていきます。
そしてバスは、目的地、宍粟の山に到着しました。
バスを降りると、そこには、地面に植物(下草)が豊かに生い茂った、林がありました。
和紙の材料にもなる三椏(みつまた)という植物だそうです。
これはバスの中での廣岡さんのお話で、すでにお聞きしていた話ですが、
手入れの行き届いた林は、間伐や枝打ちなどが小まめになされ、林の下の地面にも十分に日が当たるので、下草が繁栄します。その栄養分や山の生物多様性が、いい材木になる木を生み出すのだということ。
一方で、地面に日が差さない、暗い林があります。それがいわゆる放置林。手入れされていない林です。「鬱蔽/うっぺい」と言いますが、本数が多すぎて枝が茂りすぎ、地面に日が当たりません。真っ暗です。
その結果、細く力のない木になってしまいます。
余談ですが、花粉症の人がこんなに増えてしまったのは、それらの放置された杉たちが、断末魔の生命力で、過剰に花粉をまき散らすことも原因の一つだと言われています。
東河内の杉は、山崎の木材市場でも特に珍重されるブランド杉を目指しています。
なるほど、一本一本個性があり、力強く、見ているだけで元気をもらえそうな林。
実に清々しい山の空気と染河内川の清らかな流れを見ながら、本来の林業の元気な姿を教えられる気がしました。
大昔から、自然と共存して生きてきた人々に思いをはせる。
放置された杉林(下)
整備された林は、生気にあふれているが、放置林には生気が感じられず、真っ暗だ。
■グリーン興産さんの全面協力。
心優しき山男たちの心意気。
生気に満ち溢れた東河内杉の林を歩いて下ってくると、緑のジャンパーを身にまとった人たちが私たちを待っていてくれました。
クリーン興産の人たちです。
全国から注文が来るほどの林道づくりのスペシャリスト集団です。
グリーン興産さんは山の仕事とその成り立ちを分かりやすいパネルにして、用意してくれました。パネルを見ながら、石原社長のご説明をいただきました。
日本の林業は、戦後の復興、高度成長期など木の需要が非常に高かった時代、活気に満ちていました。生産が需要に追い付かず、その結果、外国から価格の安い材木が輸入され、大変幅を利かせるようになりました。そして日本の林業は、衰退の一途をたどり始めたのです。
今、そのころ植えた苗木が、50年~60年の伐り時を迎えています。しかし、安い外材の影響で、価格が下落して、林業がビジネスとして成立しないようになりました。また、集成材という接着剤で固めた輸入材も国産材を圧迫し始めました。
その結果、日本中が放置された杉の林だらけになってしまったのです。
また、林業は危険を伴う仕事で、その内容も決して楽な作業ではありません。
したがって、現在、大変な後継者不足にも悩んでいます。
しかし、森林は家をつくる材料というだけでなく、自然環境を涵養し、山の環境を保全するという、もう一つな重要な機能を持っています。つまり、みんなの生活基盤/コモンズなのです。そのような意識から、
グリーン興産さんは、積極的に町の人と山の実情を繋ぐ、接着剤の役割を果たしておられます。ひめぶるも、是非、その精神とムーブメントに共感し、少しづつでも寄与していきたいと思います。
実際の山で、説明されると、ほんとに実情や山男たちの努力がよくわかる。
こどもたちは、この愛らしい作業機械に興味津々だった。
■いよいよ伐倒の見学
優れもの林業機械たちの競演。
グリーン興産の石原社長から、シッカリと林業の実情と未来について伺いました。
やはり、山を保全するには、林業を自立したビジネスとして再構築する必要があるとのこと。そのために必要な、とても大事なことが
二つあります。
ひとつは、過剰な予算をかけず、しかも効率的な林道/山の木を運び出す道をつくること。
今一つは、生産効率を上げるために、林業の機械化を日本の実情に合った方法で速やかに進めることです。そのことで、後継者不足にも歯止めがかかります。
そのような、とても大切なお話をうかがった後、
いよいよ、木を伐って、機会で運び出すプロセスの実演が始まりました。
合図とともに、山の斜面に待機していたグリーン興産の社員の方が持つチェーンソーのエンジン音が、森閑とした山に響き渡ります。
そのあとくさびを打ち込む力強い音が何回か聞こえたかと思うと、キリキリキリという音と主に、樹齢50年の杉の木が、スローモーションのように倒れました。一同、思わず息をのみます。木の命をもらって、大切に生活に供する。地場工務店連合としてのひめぶるは、神妙に気持ちでその光景を目に焼き付けたのであります。
その後、待機していた二台の林業機械がエンジン音を響かせます。
まずは、スーパーザウルス。
写真の黄色い方の重機です。馴染みのあるパワーショベル、いわゆるユンボの先に、高性能のアタッチメントを付けています。土を削り、土砂をかき分けて道を作りながら、同時に伐倒した材木をしっかりキャッチして、運び出す。一台二役 の優れもの機械。
スーパーザウルスが、まずは伐り倒された材木をこちらに運んできてくれました。
そして、次に出てきたのが又すごい機械。
プロセッサーと呼ばれる青い奴です。
プロセッサーは、最初に木の端から端まで舐めるように移動します。その時、木の太さや長さを認識して、今度は、最適な長さに木を伐っていく機械です。
まるでロボット。これには一同口をあけて見とれました。
このようにして、
①適切な道をつくる
②間伐を行う
③木をザウルスで運び出してくる
④プロセッサーで木を均一な長さに切りそろえる
そして積み込み。
という一連の林業作業の実演を見ることができました。このように、既存の重機に高性能のアタッチメントを装着する合理的な機械化で、日本の林業の生産性を上げていく。これが今、地道に進められている日本の山の再生事業なのだということが、よく理解できました。
チェーンソーの音と、くさびを打ち込む音が森閑とした山に響き渡る。
得難い体験。山の神様に感謝。
■いよいよ待ちに待った
子供コックピット体験。
一通り実演を見せていただいた後、いよいよ子供コックピット体験です。
お父さんやお母さんと一緒に、ザウルスやプロセッサーのコックピットに乗り込み、自由自在に動かしてみることができました。こどもたちは、興奮しすぎて、呼吸が荒い。前進でエンジンの振動を感じています。風防ガラスに映る、東河内の美しい杉林と子供たちの嬉々とした表情のオーバーラップを見ながら、生活基盤/コモンズとしての山の大切さを改めて感じたのでありました。
最後にみんなで、クリーン興産のおじさんたちに心からありがとうと言いました。
又来るからね。
お父さんも真剣そのもの。
こどもたちの喜びようを見ていると、、定期的に継続していきたいと、つくづく思いました。
■製材のプロセスを見る
兵庫木材センターへ
宍粟の山にお礼を言って、しばしの別れを告げた後、播磨の国の一の宮 伊和神社前の道の駅で、昼食を取りました。
その後、伊和神社の神主さんのお話をお聞きし、すこし郷土の歴史、おもに播磨の国風土記と伊和神社の由来について、お聞きしました。
そののち、いよいよ、木材の加工工程を見学するため、兵庫木材センターという、県下有数の製材施設にやってきました。
兵庫木材センターは、地場の製材所と森林組合などの生産者が共同出資して作った組合形式の製材所で、全国からも視察に訪れる人が絶えない、モデル的な製材所です。
まず、その広大なストックヤードに驚きました。フルオートメーション、フル稼働の製材所であるので、材料の原木がものすごい量集まっています。
最初は、皮むき工程。山から切り出され、先ほど見た林業機械、プロセッサーで一定の長さに切りそろえられた、材木は、まだ皮付きのままストックされます。
それを、順次、皮むき工程に流していきます。
皮をむかれて、まだ湿り気が残る材木が、次々とラインに乗せられていきます。
次の工程は、裁断。まず真ん中の芯を中心に、柱になる材をとり、その周辺の材を間柱や板材に加工していきます。
工場の製材ラインは、それは見事なものでした。
人手を必要以上掛けず、効率的に材木が流されていきます。
裁断工程は、バンドソウと呼ばれる、ベルト状ののこぎりで、スパッスパッと原木が、建築の柱の寸法に切り落とされていきます。
山での50年の生育、その間の手入れ、
それから伐りだし。永い年月の末に、
建築の柱、板材に生まれ変わっていく杉の原木たち。杉林を見学した後なので、参加者の皆さんも真剣に説明を聞いています。
こどもたちも、ちゃんと意味を理解ができるようで、整然と列に並んでくれました。
適切な材に裁断された後、柱材は乾燥機の工程に進みます。
加工で出る、木くずを燃焼させて、ボイラーを稼働させ、その蒸気で木を乾燥させていくのです。この工場では、燃料を購入することなく、木をすべて使い切る形で、ボイラーをフル稼働させているとのことでした。
特に杉は、水分を多量に含み、最後まで放さないのが特徴です。現在、建築の基準で含水率という数値が基準になっているので、その数値目標まで、木を乾燥させるために、120℃の高温で乾燥させているのだそうです。
昨今は、乾燥温度が高いと、木の持つ風合いや精油成分が損なわれるとの意見もあるのですが、この製材所では、まず、計画的に需要と供給のバランスを形成し、山から大手ハウスメーカーへの安定供給とビジネスの成立を第一義にしているとのことでした。
一方、板材に裁断された部分は、規則正しく積み重ねられて、野外で天然乾燥させます。
やはり、天然乾燥材のほうが、色つやや木目が美しく、瑞々しい。これは見た目でもやはりそうだと実感しました。
最後に、プレーナーと呼ばれる、かんな
掛けの工程を経て、建築の柱として梱包され、プレカット/建築のジョイント加工を施すための工場へと出荷されていきます。
■いい鮨の職人が、魚の生息状況をよく知っているように
地場工務店も、地元の材木について、山のことから学びたい。
今の世の中は、流通や業種が細分化され、自然に存在する材料が、どのようなプロセスで、私たちの暮らしにもたらされるのか、なかなかわからないことも多いのが現実です。
たとえば、スーパーの切り身の魚、こどもたちは、魚の泳ぐ姿と食卓の魚が結びつかいこともあるかもしれません。
同じように、家の材料である木材も、山で成長している過程から、しっかり知っておきたい。これが今回の森林見学会の第一のテーマでありました。
その意味では、プロセス全体を見ることができ、参加者一同、新たな境地で木材に接することができるようになりました。
また、山が、私たちの社会の生存基盤/コモンズであり、みんなで保全していかなければならない公共的な社会資本であることもよくわかりました。特に子供たちの世代に、よりよき形で受け継いでいかなければならないという思いを強くしました。
地元の山と町の間をつなぐ、接着剤的存在としての地場工務店。
その存在意味を、新たな形で再認識できました。
こんごとも、森林見学会を継続しながら、山のネットワークと連携して、そのサイクルをより大きなものにしていきたいと実感しました。
ご協力いただいた、グリーン興産様 兵庫県西播磨県民局廣岡さん、宍粟森林組合様 各位に、心からお礼を申し上げます。