土佐漆喰

COLUMN

2014年12月04日

土佐漆喰

Written by ひめぶる コーディネーター LDK玉田敦士

石灰、日本人が古来から用いた驚くべき効能。われらが白鷺城の壁材料 よく知っておきたい。

姫路城 私たちの郷土のシンボル。その外壁には古来から「土佐漆喰」が使われていると聞いて、私たちは興味津々で高知県南国市の田中石灰工業さんを訪問しました。今回の平成の大改修でも、この田中石灰工業の漆喰が使用されています。まずは石灰とは何か?について詳しく教えていただきました。
田中石灰工業は南国市の稲生地区というところにあります。この裏山が丸ごと石灰岩の山。江戸時代の後期から掘り始められて、山沿いには石灰を扱う事業者が軒を並べたそうです。田中石灰工業の会社としての創業は明治27年です。近代化する日本が、工業用原料としての石灰にも注目し始めた時期だったのでしょう。
まず、裏山の石灰岩を露天掘りします。その石灰岩を焼きます。(焼成という)CO2(二酸化炭素)が揮発して、「生石灰」というものになります。右ページの写真の黒っぽい岩が石灰岩、白い塊が焼成した後の「生石灰」です。この生石灰に適度な水を加えると「消石灰」という粉になります。漆喰の材料はこの「消石灰」です。消石灰は、二酸化炭素を吸収して、もう一度石灰岩に戻ろうとします。これは自然現象。ですから、消石灰は二酸化炭素に触れると再び固まるのです。たとえば、すでに登場した京都の三和土(たたき)も石灰を使いますが、石灰のこの性質を利用したものです。
つまり、石灰岩は「焼く」という原始的な作業だけで、人間の役に立つ生石灰や消石灰に変化して、一旦人間の手のひらに乗っかる。それからまた、自然現象で石灰岩に戻ろうとする。そのとき、二酸化炭素を吸着する。古来から人間は、この性質を利用して、石灰を様々な用途で使ってきたのです。
石灰が固まるのは、自然現象ですから、化学成分は一切加える必要がありません。大昔から石灰は、人にやさしい素材であり続けたということです。そして日本で自給できる数少ない鉱物資源の一つなのです。

「土佐の塩焼き」という石灰の生成法。
その迫力に感動。さながら宮崎駿の世界。

では、その「焼く」(焼成)という作業の現場に案内されて、思わず声をあげました。左ページの写真が、その作業場です。宮崎駿の「もののけ姫」に出てくる「たたら場」を彷彿する、人間と火と石灰の世界。山の斜面を縦に掘ってお酒の徳利のような竪穴が並んでいます。そこに掘ってきた石灰岩と火を熾すコークスを交互に投入していくのです。これを「土中窯」といいます。塩を添加して900℃〜1000℃の低温で長時間焼くことで、不純物がのぞかれる、これが一番いい方法だそうです。そのことで、石灰の分子構造が整えられて、乾燥しても割れにくい漆喰ができるのだそうです。それを「土佐の塩焼き」と言います。昔の人の知恵が現役で活躍しているのです。
この作業場に来て、石灰を使った家は、人間が人間でいられる空間になる、そんな気がしました。

こうして漆喰かべの材料は出来上がる。
姫路城と同じ壁材、自分の家でも使いたいっ!

高知県の石灰岩は、もともと不純物が少なく良質なのですが、更に純度を高めて他の追随を許さないのです。これが土佐漆喰と言われる所以です。
漆喰とは、こうしてできた消石灰に、割れを防ぐ「スサ」(麻)と海草由来の糊を入れて、左官材料にしたものです。
また、いつも食べているこんにゃく。これは消石灰なしでは固まらないそうです。ですから消石灰は食品添加物。食べられるのです。安心感がさらに増しました。
古来の土佐漆喰は、稲わらを2か月発酵させて「スサ」にして、更に3か月熟成させたものを言うそうで、高知県の地元や文化財クラスの建物以外ではなかなか使われなくなりました。土佐漆喰は、塩焼きの塩の量を多くして発酵した稲わらのスサを使うことでひび割れが発生しにくくなります。色合いは独特で、少し黄色みを帯びたものになるのです。世界遺産の姫路城の改修に使われるのですから、日本人の漆喰の知恵も世界遺産なのです。

西播磨/姫路 に住んでいるんですから、漆喰について、もっとよく知り、積極的に使っていきたいですね。
田中石灰工業では、DIYの壁材 生石灰クリーム「タナクリーム」も販売しています。使いやすい材料。余分な湿気を吸い取ってくれる「吸湿効果」も優れていますので、是非検討したいですね。