和紙壁紙

COLUMN

2014年12月04日

和紙壁紙

Written by ひめぶる コーディネーター LDK玉田敦士

越前和紙のふるさと、福井で生まれた和紙壁紙「玉紙」の超撥水力が新しいニッポン人の室内空間を演出する

住宅建築の世界では、和紙と言えば今までは”ふすま”の紙として考えられていました。しかし、和室が激減し、それ以上にふすまのある家が激減し、すっかり需要が減ってしましました。これは実に残念なことだったのです。しかし、ここに紹介する福井市の丸和さんは、壁紙としての和紙の可能性を研究してこられ、このたびついに画期的製品「玉紙」を生み出したのです。
今や日本の家は、壁の貼る仕上げ材としては、ビニールクロスの独壇場です。クロスって英語で「布」の意味なのに、ビニールと頭についている、なんとも不思議な新建材です。結局フェイク。「もどき」建材なのかもしれません。
ということで、ビニールクロス全盛時代ですから、専用の糊付け機械を職人さんが持ち込んで、貼っていく風景がどこの現場でもいまや当たり前のことになっています。現実的には、この糊付け機械を使って、クロスを張る職人さんが施工できる和紙の材料でなければ、和紙を再び、日本人の室内空間に普及させることはできない。丸和さんのイノベーションの出発点は施工性でした。
そのためには、糊を付けても水を通さない、新しい性質をもった和紙が必要となります。そこで和紙に超撥水加工を施し、通気性はあるのに、水ははじく和紙壁紙「玉紙」の開発にチャレンジしたのです。
実際水を玉紙のうえに垂らすと、まるでハスの葉の上の水滴のように、水が玉になります。それで「玉紙」の名前が付きました。
ケイ素の性質を応用した、一種のナノテクノロジー。水の粒子より細かい膜を和紙表面に形成します。ですから、従来の和紙の特長であった通気性はそのまま保持しているのに、水というHとOの結合物質ははじく。そのような原理です。もちろん、化学的合成物質や有機系の薬品は使っていません。ケイ素は火山灰や土などどこにでもある物質なのです。いわば風土に根差した技術、知恵と言えるかもしれません。
これは画期的なことで、日本の住宅のインテリアがビニール一辺倒から開放される日がくるかもしれない。しかも、この超撥水の技術は汚れやたばこのヤニも寄せ付けないのです。つまり汚れない。奥さん大喜びです。

越前和紙の伝統を何とか現代の暮らしに。
丸和の執念と、心優しき和紙の里。

汚れないということは、これから高齢化社会を迎える日本にとっても大切な材料なのです。従来高齢者のいる施設や住宅は、汚れを気にして、いかにも無味乾燥なビニールやプラスチック系の石油製品を仕上げにしてきました。そんな環境で人生の集大成の時間を過ごすのは、実に残念です。でも玉紙であれば、日本人らしく、優しい色合いの室内環境で、余生を送ることができるのです。朗報というべきでしょう。
ところで、そもそも和紙とは何であるか?丸和さんに、和紙のふるさと福井県越前市をご案内いただきました。和紙とは、楮(こうぞ)三椏(みつまた)などの樹木の皮をはいで何度も煮て柔らかくし、右ページの写真のような船で漉いてつくる。ということは、なんとなく皆知っているのです。そこにもう一つ大事な要素がありました。トロロアオイという植物です。これを煮込んでのりのような粘着性分にして、紙漉きの時に入れるのだそうです。トロロアオイは水が冷たくないと粘着性分が出てこないそうで、紙漉きは、つらい水の冷たい時期に行うことになるのです。
人間国宝の岩野市兵衛さんの作業場にもお連れいただきました。横山大観や平山郁夫など、日本画の大家は、越前和紙しか使わなかったそうで、画家ごとに原料や混和剤に独特の配分があったということをお聞きしました。実際に作業しているところにお邪魔したので、本物の精魂というものを目の当たりにした思いがしました。
狩野派から浮世絵、そして日本画の大家へ、様々な色の芸術をバックで支える、キャンバスとしての越前和紙。色の発色とは何か?を考えるとき、単に表面に塗るということではなく、塗料を適度に受け入れ、塗料が浸みこむことで、自然の色合いになるのだと、紙漉きを見せていただきながら実感しました。そして今、その日本の色を、丸和さんが、生活の場に再現してくれているのです。和紙は「彩かさね」という、玉紙をベースに、より和紙の風合いを出した商品に結晶しました。浸みこむ色というイメージが実によく表現された逸品です。しかもこれが超撥水加工です。
奥行きのある、日本の自然の色。是非、生活の場に使いたいものです。