2014年12月04日
畳表
Written by ひめぶる コーディネーター LDK玉田敦士
植物としての栽培と工場での加工、その両方を農家が行うのが畳表の世界。
「日本の宝」が失われつつある。
畳の原料、いぐさ。年配の方は社会科の時間で岡山の特産品として習った記憶があるかもしれません。でも、今では国産畳表の98%が熊本県産、しかも八代地方がそのほとんどを栽培しています。
ところが、私たちがJAやつしろの担当者さんにお会いしたとき、一番最初に口から出たのは「国産いぐさは、いや畳は、いまや、絶滅危惧種です。」という言葉でした。日本の家から畳がなくなる・・・。ほんとうにそれでいいのでしょうか?
私たちが、畳を使わなくなったのは、もしかしたらトレンディードラマが始まったあたりかもしれません。1980年代。その主人公はフローリングのマンションに住んでいました。畳敷きのアパートがオシャレじゃないという軽薄なイメージが、そのころ出来上がります。
それでも、「日本の文化」というイメージの中では、だれもが畳の座敷を思い浮かべます。文化の象徴だと思っているのに使わない。そしてその間に、畳の生産量は激減し、後継者不足は今や深刻な状態で、気が付けば畳は「絶滅危惧種」になっていたのです。白石さんのお話をうかがって、畳の話は「心を引き締めて」する必要があると思いました。そして、畳のことがもっと知りたくなりました。
心を込めた栽培と加工。生産農家のこころ。その素晴らしき世界。
いぐさ生産者さんのところをお訪ねしました。
家の前には、緑濃きいぐさ畑とその隣の黄金色の田んぼ。畑の奥の川の土手には、色づいた柿の木。実に美しい「風景」です。しかし、この「風景」を私たちは、孫の世代まで残せないかもしれません。
生産者さんは先ず、栽培の過程を説明してくれました。いぐさは、ここがいぐさ畑です。と決まった場所でやるのではなく、連作障害をなくすために、いぐさと稲作を輪作して、間に天然の肥料となるれんげを植え、畑を休ませることを小まめに繰り返すのだそうです。畳の需要が不安定なので、その割り振りが本当に難しく、大変な手間が掛かるとのことでした。
また土地を大切にし、なるべく水を汚さない、八代の海を汚さないために、できるだけ農薬や化学肥料を少なくすることを、生産者誰もが心がけているとのこと。頭が下がりました。
いぐさの収穫は例年7月。ハーベスタと呼ばれる収穫機械で収穫したいぐさを畳表(たたみおもて)に加工します。
いぐさが畳半間分の長さに成長するように。
まずは「泥染め」という工程があります。いぐさを淡路島産の天然粘土の泥水に付け込みます。泥染めは、乾燥の際の熱を吸収して、乾燥を早める効果があります。葉緑素が分解されないため、艶だしや保護膜の効果もある、昔の人の知恵です。私たちが知っている新しい畳のいい匂いは、この泥染めの効果によるものです。
そのあと、茎の長さを分類し、自動織機でたて糸(経糸)に編みこんで、畳表を作ります。機械を使っても、大変時間の掛る作業です。しかし、織り上げられる畳表は、惚れ惚れするような彫の深さがあり、しばし見とれてしまいました。
たて糸に麻を使ったものは、更に畳のひだがしっかり出ます。良質な畳表は、いぐさの成長が均一で、半間(約91㎝)以上とれることが必要です。色や太さが均一で、表情にメリハリのある畳になります。織り上げ工程に気持ちを込めるだけでなく、いぐさを生育する段階から、品質を念頭に置いている大変高度な「技」の世界です。一年中休むことなく気持ちを持ち続けなければ、良質な畳はできないのだと教わりました。「稲作は、いぐさに比べりゃぜんぜん楽だわ」橋口さんのその言葉に、「日本人の根っこ」って何だろうと、改めて考えさせられました。
中国産いぐさが市場を席巻する現状。
いま、畳の需要が減るだけでなく、安い中国産いぐさが市場に出回っているそうです。しかし私たちユーザーは、畳の善し悪しの判断や、国産かどうかの区別ができない。熊本県全体では、それを区別する意味でマスコットキャラクター「たぁみ」をあしらった、QRコードつきのタグを畳表一枚一枚に編みこんでいます。QRコードで誰が育ててくれたのか、わかるようになっているのです。
それ以外にも、後継者不足、いぐさ専用の田植え機・収穫機の生産停止など、畳を取り巻く状況は逆風だらけです。でもユーザーが家を建てる前にそのことを知っていただくことことによって、畳の部屋をひとつは作ろうと考えていただけるのでは?と思います。栽培と加工が一体になったこの素晴らしき国産畳を、守っていきたいと思いませんか?